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大阪地方裁判所 昭和43年(ワ)1479号 判決

原告

勝又弘行

被告

大阪トヨタ自動車株式会社

ほか二名

主文

一、被告らは各自、原告に対し金八七六、九〇〇円およびこれに対する昭和四四年四月二九日から支払いずみまで年五分の割合による金員を各支払え。

二、原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

三、訴訟費用は五分し、その四を原告の、その余を被告らの各負担とする。

事実及び理由

第一申立

(原告)

被告らは各自原告に対し金一四、九〇七、九〇五円およびこれに対する昭和四四年四月二九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言。

(被告ら)

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二争いのない事実

一、本件交通事故の発生

とき 昭和四二年九月二日午後〇時三〇分ごろ

ところ 大阪市城東区両国町三七四番地先路上

事故車(イ) 普通貨物自動車(仮ナンバー大―一二四四号)

右運転者 被告尾張繁幸

事故車(ロ) 軽四輪貨物自動車(大六す八二―六七号)

右運転者 原告

態様 (イ)車が(ロ)車に追突した。

二、(イ)車の所有関係および被告尾張の業務執行

被告大阪トヨタ自動車株式会社(以下被告大阪トヨタ自動車という)は(イ)車を所有しているところ、本件事故当日被告株式会社土佐モータース(以下被告土佐モータースという)に一時引渡したが、本件事故当時、被告土佐モータースの従業員である被告尾張は業務として被告大阪トヨタ自動車に返還するため(イ)車を運行中であつた。

三、弁済ならびに損害填補

原告は、被告土佐モータースから休業補償費として四二五、〇〇〇円の弁済を受け、自賠保険金一、二八〇、〇〇〇円の支払を受けた。

第三争点

(原告の主張)

一、被告らの責任原因

(一) 被告大阪トヨタ自動車

根拠 自賠法三条

該当事実 第二の一、二の事実、および被告大阪トヨタ自動車は、被告土佐モータースが(イ)車を他人に販売することを目的として同被告に(イ)車を貸与したものである。

(二) 被告土佐モータース

根拠 自賠法三条 民法七一五条一項

該当事実 第二の一、二の事実および左記(三)の事実。そして被告土佐モータースが被告大阪トヨタ自動車から(イ)車の引渡を受けた目的は右(一)のとおりである(被告土佐モータースとの間では争いがない)。

(三) 被告尾張

根拠 民法七〇九条

該当事実 被告尾張は(イ)車を時速五五キロメートルで運転して本件現場附近に差しかかつた際、折から前方横断歩道の手前に(ロ)車が一時停止していたにも拘らず、漫然と前方に対する注意を怠たり脇見して同速度のまま進行した過失により(イ)車を(ロ)車に追突させたものである。

二、損害の発生

(一) 傷害および後遺症の内容

原告は本件事故のため頸椎捻挫、頭部挫傷等の傷害を受け、その後遺症として左側頸腕症候群および自律神経失調症が残存し、症状として、四肢体幹の諸反射は高進し、知覚鈍麻が左半身に強度に、右半身に軽度にあり、四肢にしんせんと痙直があり関節運動に抵抗があつて速やかな動作や巧緻運動が阻害されており、握力は右手が四キログラム、左手が二・五キログラムに低下し、また足関節および趾の力は三程度に低下していて三〇〇メートル以上歩行することはできない。

(二) 治療および期間

(1) 本件事故当日に伊藤病院で、同年九月四日に野木医院で各治療を受けた。

(2) 昭和四二年九月五日から同年一〇月三一日まで北野病院において通院治療(実日数三日)を受けた。

(3) 昭和四二年九月六日から同四三年九月一六日まで西田辺病院において通院治療(実日数二六六日)を受けた。

(4) 昭和四二年一一月六日から現在まで(ただし(5)ないし(7)の期間を除く)大阪市大附属病院において通院治療を受けており、昭和四四年四月二二日までの通院実日数は三四一日である。

(5) 昭和四二年一二月九日から同年一二月一八日まで検査のため貴志病院に入院した。

(6) 昭和四四年一月三〇日から同年四月三日まで松井外科整形外科病院において入院治療を受け、その間に腰部椎間板ヘルニア髄核摘出術を受けた。

(7) 昭和四二年九月八日から同年一〇月九日まで(実日数四日)、および昭和四四年一月六日から同年一月一六日まで(実日数四日)いずれも松田神経科、内科診療所において通院治療を受けた。

(三) 療養費

(1) 治療費 合計二九二、八一三円

(イ) 伊藤病院分 五〇〇円

(ロ) 北野病院分 四、九三〇円

(ハ) 西田辺病院分 昭和四二年九月六日から同年一一月三〇日までの分六三、三五九円は被告土佐モータースが支払つたので、本訴においては昭和四二年一二月一日から同四三年九月一六日までの分一一七、八六八円を請求する。

(ニ) 大阪市大附属病院分 八〇、三七五円

(ホ) 貴志病院分 二二、八〇〇円

(ヘ) 松井外科整形外科病院分 四一、二七〇円

(ト) 松田神経科、内科診療所分 二五、〇七〇円

(2) 付添費

前記松井外科整形外科病院における入院中昭和四四年二月三日から同年二月二八日までの付添費として四六、八〇〇円を支出した。

(3) 医療器具代 一四、二七〇円

(4) 昭和四二年九月五日から同四四年四月二二日までの通院交通費合計一一八、六四五円

(四) 逸失利益

原告は本件事故のため左のとおり得べかりし利益を失つた。

(1) 職業 スーパーマーケット「株式会社ニューいろは」の取締役

(2) 収入 一ケ月七〇、〇〇〇円

(3) 就労可能年数

本件事故当時の年令 三〇歳

本件事故にあわなければ、事故後なお三三年間は就労し得た筈である。

(4) 労働能力、収入の喪失

原告は前記傷害および後遺症のため事故後全く就労できなかつたばかりでなく、右後遺症は身体障害者福祉法別表第四の五(第三級)に該当するものであつて、今後においても就労することは不可能である。従つて、原告は、入、通院中はもとよりその後においても収入を全部喪失した。

(5) 逸失利益額

原告の昭和四二年九月二日から三三年間の逸失利益の右日時における現価は一〇、四六〇、三七七円(ホフマン式算定法により年五分の中間利息を控除、年毎年金現価率による)

(五) 精神的損害(慰謝料)

原告は、昭和三九年八月二五日妻尚子と結婚し、昭和四〇年二月二一日長男尚之が出生し、更に昭和四三年五月に次子出生の予定で平和な家庭生活を営んでおり、またスーパーマーケット経営には卓抜した経営手腕を有していて業界でも注目されていたのに、本件事故のため一瞬にしてその将来は失われてしまい多大の精神的苦痛を受けたから、原告に対する慰謝料は五、〇〇〇、〇〇〇円を相当とする。

(六) 弁護士費用

原告が本訴代理人弁護士に支払うべき費用は左のとおりである。

(イ) 着手金 一〇〇、〇〇〇円

(ロ) 成功報酬 一、五〇〇、〇〇〇円

三、損害填補

原告は、申請人を原告、被申請人を被告土佐モータースとする大阪地方裁判所昭和四三年(ヨ)第二〇五一号事件仮処分決定により、被告土佐モータースから合計七二〇、〇〇〇円の支払を受けた。

四、本訴請求

以上により、原告は被告ら各自に対し、右二(三)ないし(六)の合計金一七、五三二、九〇五円から第二の三および右三を控除した残額金一四、九〇七、九〇五円およびこれに対する本件事故による損害発生後である昭和四四年四月二九日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

五、被告らの主張に対する反論

仮りに被告土佐モータースが治療費一八二、八二九円を弁済したとしても、右弁済金は本訴で請求していない部分に充当されたものであるから、本訴請求にかかる部分から控除すべきではない。

(被告らの主張)

一、被告大阪トヨタ自動車は(イ)車の運行者ではない。

被告土佐モータースは被告大阪トヨタ自動車と何ら一体的共同もしくは従属する関係にはなく、法律的にも経済的にも完全に独立した商人であり、被告大阪トヨタ自動車はこの様な被告土佐モータースと商取引をして同被告に(イ)車を売却し引渡したものであるから、自動車の月賦販売において代金完済まで所有権を留保して自動車を引渡した売主の地位と同様であり、(イ)車に対し何ら支配権を有しなかつたものである。従つて被告大阪トヨタ自動車は自賠法に基く責任はない。

二、原告の受けた傷害は本件事故と因果関係がない。

(イ)車は(ロ)車に軽く接触したにすぎず(ロ)車にはほとんど衝撃を与えなかつたから本件追突により原告に傷害が生じる筈がなく、むしろ、原告は本件事故現場の横断歩道に差しかかつた際子供が横断し始めるのを発見して急停止し、その際の(ロ)車自らの衝撃により受傷し、その程度も全治約一〇日を要する位にすぎなかつたものである。そして、仮りに原告主張の如き重大な症状が存するとしても、右症状は本件事故と無関係な疾病によるものである。

三、原告は本訴提起前に被告土佐モータース代表者に対し毎日の如く面会を強要し、時には六時間以上も面談を要求続行しそ普通人以上の活力を有しており、現在、乗用車を運転して通勤し時々貨物自動車も運転して、全く通常人と同様に就労している。

四、仮りに原告が本件事故により受傷したものとしても、株式会社「ニューいろは」は昭和四二年一〇月三一日解散したから、原告は本件事故にあわなくとも右同日以降失職し収入を得ることができなかつたものである。

五、本件事故発生につき被告尾張は無過失であり、本件事故は原告の過失によつて生じたものである。すなわち、

原告は(ロ)車を運転し本件道路のセンターラインに沿つて進行してきて本件横断歩道に差しかかつた際、横断歩道の手前道路左端沿いに大型貨物自動車とその後に普通乗用自動車が一時停止していたのであるから、右停止車両の陰となつて道路左前方に対する見透しがさえぎられていたのであるが、横断歩行者のあることを予想して横断歩道の手前で一時停止すべきであるにも拘らず、漫然と脇見をしながら同一速度で進行したため横断歩道の直前に至つて始めて左方から子供が横断しようとしているのを発見し、突嗟に急激な停止措置を採つた。そのため、被告尾張は時速三〇キロメートルで(ロ)車の後方を進行していたのであるが、(ロ)車に追突するのを避けるため直ちに右転把ならびに急停止の措置を採つたが、わずかに(ロ)車の右後部に接触したものである。

六、弁済

被告土佐モータースは、原告に対し治療費および交通費として、昭和四二年九月二日から同年一二月八日までに別紙弁済表記載の如く一五二、八〇九円、その後三〇、〇三〇円、合計一八二、八三九円を支払つた。

第四証拠〔略〕

第五争点に対する判断

一、被告大阪トヨタ自動車、同土佐モータースの責任原因

(1)  〔証拠略〕によれば左の如き事実が認められる。

被告大阪トヨタ自動車は自動車の販売等を業としており、被告土佐モータースは被告大阪トヨタ自動車の販売代理店であつて、新車販売の場合は被告土佐モータースが売買の取次をして手数料を取得し、中古車の場合は被告大阪トヨタ自動車より被告土佐モータースに対し確定価額で引渡し、同被告は自己の名で任意に右価額に数万円を加えた価額で販売し、右追加価額分を自己の収入としていたのであるが、本件事故当日、被告大阪トヨタ自動車は被告土佐モータースから顧客に自動車を売却したい旨の連絡を受け、確定価額を約一八〇、〇〇〇円と定めて中古車である(イ)車を同被告に貸出したが(事故車を右の如き目的で貸出した事実は被告土佐モータースとの間では争いがない)、被告土佐モータースと顧客との間で売買が成立するに至らなかつたので、被告土佐モータースから被告大阪トヨタ自動車に返還する旨連絡した後に、被告尾張が(イ)車を返還すべく運行中に本件事故が発生した。

被告大阪トヨタ自動車は被告土佐モータースに(イ)車を売却したものであるとの被告大阪トヨタ自動車の主張に添う証人橋本の証言部分は、右認定の事実に照らして容易に措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(2)  被告会社両名の責任

右認定の事実および第二の二の事実に基けば、被告大阪トヨタ自動車は、本件事故当日、その所有する(イ)車の売却を委託する目的で同車を被告土佐モータースに一時引渡したが、売買契約が成立しなかつたのでその返還を受ける旨を承諾し、本件事故当時被告土佐モータースの従業員である被告尾張が返還に赴く途中であつたから、被告大阪トヨタ自動車は、(イ)車の所有者として同車を支配しおよびその利益の帰属する地位を失うことなく持続していたものというべきであり、また被告土佐モータースは、営業として、第三者に対し自己の名で売却し前記の如き追加価額分相当の利益を得る目的で、被告大阪トヨタ自動車との代理店関係に基き同被告から事故車の引渡を受け、これを自己の支配管理下に置いたところ、本件事故当時被告大阪トヨタ自動車との取引関係の遂行業務の一還として、自己の従業員である被告尾張をして(イ)車を被告大阪トヨタ自動車に返還に赴かせていたものであるから、被告土佐モータースも被告大阪トヨタ自動車と競合的に事故車の運行を支配し、その利益の帰属する地位にあつたものと認められる。

従つて、被告大阪トヨタ自動車と被告土佐モータースはともに自賠法三条の責任主体に該当する。

二、被告尾張の責任原因

(一)  本件事故の状況

〔証拠略〕を綜合すれば左の如き事実が認められる。

(1) 本件道路は東西に通じる歩道と車道の区別のあるコンクリートで舗装された平担な道路で、車道の幅員は一六メートルで、現場附近に信号機はないが横断歩道があり、指定最高速度は毎時五〇キロメートル以下で、本件事故当時交通量は多く路面は乾燥していた。

(2) 原告は(ロ)車を時速約三五キロメートルで運転し道路中央寄りに東進してきて本件横断歩道の手前約三〇メートルに差しかかつた際、横断歩道の北端歩道上に親子連れが佇立して横断できる機会を待つている様子であつたため時速約一五キロメートルに減速して進行したところ、横断歩道の手前一〇メートル弱に接近した時、突然右親子が小走りで横断し始めたので突嗟に急停止の措置を採つて横断歩道の直前で停止した。

(3) 被告尾張は(イ)車を運転し横断歩道の手前約五〇メートル附近から(ロ)車に追従してきて、横断歩道の手前約三〇メートル附近から(ロ)車に従つて減速したが仕事で急いでいたため同車との距離を四メートル強に保つたまま進行したところ、(ロ)車が突然急停止したので、直ちに右転把ならびに急停止の措置を採つたが及ばず、(イ)車の左前部を(ロ)車の右後部に衝突させた。

なお、被告尾張は前記横断歩行者に全く気付いておらず、また本件事故の衝撃により(イ)車は特に破損しなかつたが、(ロ)車は運転席後部の窓ガラスと右テールランプが破損し、荷台後部右下端が少し凹んだ。

(4) 横断歩道の手前道路左側端に沿つて大型貨物車と乗用車が停止していたとの被告ら主張事実を認めるに足りる証拠はなく、大型貨物車と乗用車が(ロ)および(イ)車の左側を併進していたとの被告尾張本人尋問の結果は前掲証拠に照らし容易に措信し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  被告尾張の責任

右認定の事実に基けば、被告尾張は(ロ)車の直後を進行し、折から前方横断歩道を横断しようとする歩行者があつたにも拘らず、漫然と、前方に対する注視を怠たり、かつ(ロ)車が急に停止したときにおいてもこれに追突するのを避けることができるため必要な距離を保たなかつた過失があつたものと認められるから、民法七〇九条に基く過失責任がある。

三、被告大阪トヨタ自動車、同土佐モータースの運行者免責の抗弁は、右二の如く被告尾張に事故車運行上の過失があつたから、その余の点を判断するまでもなく採用し難い。

四、損害の発生

(一)  傷害および後遺症の内容

〔証拠略〕ならびに鑑定の結果と前認定の如き本件事故の状況を合せ判断すると左のとおり認められる。

原告は本件事故の衝撃により、後頭部を後部窓ガラスで打ち下半身部を前下方へ突出され、むち打症の傷害を受けおよび第四、五腰椎間に先天的分離椎弓があつたため椎間板ヘルニアの傷害を生じ、そのため頭痛、耳鳴、悪心、頸椎運動制限および膀胱障害が発現し、昭和四三年二月ごろは左上下肢知覚麻痺および筋弱力、自律神経失調症があつて速やかな動作、巧緻運動が阻害され、同年八月一日ごろまで右症状は続いていたが、同年一二月ごろには左上肢の筋弱力はあるが手指の巧緻性は極めて良好となり、左上下肢ともに筋の特別な委縮および神経の顕著な病的反射はなく、脳神経および頸随に関する検査においても特に異常はなくなつた。なお左半身全体の鈍麻についても特に頸髄の損傷からおこつたものとはその神経分布のうえから認め難い。

原告は昭和四四年二月三日に腰部椎間板ヘルニア随核摘出術を受け、その後膀胱障害、膝のしんせんが消失し、同年三月ごろから時たま乗用自動車を運転し、同年六月一日から●●産業株式会社経営の「スリーストアー」に勤務し、勤務時間は一定しないが店の管理、宣伝、店頭売りに従事し、その間度々自ら普通乗用自動車を運転して通勤している。なお、原告は同年八月下旬から勤務を止めているが、これは同店が内部改装のため休業したためであり、勤務を始めたころから通院治療は約二週間に一度位に減少している。

原告の前記の如き頭痛などの自覚症状(愁訴)はなお存するが、これは事故前から存した情緒的な不安定が本件事故による身体的不安を契機として露呈した心因反応にも基くものであり、レントゲン写真によるも頸椎、椎体の形態および配列に著明な異常は認められず、頸部に●血的治療を施す必要はない。

右認定に反する〔証拠略〕は前掲証拠に照らし容易に措信し難く他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(二)  治療および期間

原告主張のとおり。〔証拠略〕

(三)  療養費 合計四七二、五二八円

(1) 治療費

原告主張のとおり少くとも二九二、八一三円を支出したものと認められる。〔証拠略〕

(2) 付添費

原告主張のとおり四六、八〇〇円を要したものと認められる。〔証拠略〕

(3) 医療器具代

原告主張のとおり一四、二七〇円を要したものと認められる。〔証拠略〕

(4) 通院交通費

原告主張のとおり一一八、六四五円を要したものと認められる。〔証拠略〕

(四)  逸失利益

(1) 〔証拠略〕によれば、原告は本件事故当時、スーパーマーケットである資本金三、〇〇〇、〇〇〇円の株式会社「ニューいろは」の取締役で、会社の機関としての業務ばかりでなく配達等の日常業務にも従事しており、一ケ月七〇、〇〇〇円の収入を得ていたことが認められる。

なお、〔証拠略〕によれば株式会社「ニューいろは」は本件事故の後である昭和四二年一〇月三一日株主総会の決議により解散していることが認められるけれども、〔証拠略〕によれば原告は本件事故当時三〇歳で普通健康体であつたことが認められるので、右事実に照らすと、原告は本件事故にあわなければ昭和四二年一一月一日以降も何らかの業種に再就職し従前の一ケ月七〇、〇〇〇円の収入を下らない収入を得ることができた筈であると認められる。

(2) 前記三(一)(二)に認定の如き原告の傷害ならびにこれによる症状の治療と軽快の経過および原告の年令からすれば、原告は本件事故後昭和四三年九月一日ころまでほぼ一年間は傷害ならびにその症状のため休業を余儀なくされたが、その後は右症状は局部に頑固な神経症状を残すものというべき程度に軽快し、再び昭和四四年一月三〇日から同年四月三日まで腰部の手術のため全く就労するかできなかつたものと認められるが、原告の症状は心因的要素にも基くもので、手術により矯正された腰椎間板ヘルニアの外には顕著な他覚的、器質的変化はなく主に自覚症状に基くものであることからすれば、昭和四四年五月末まではなお局部に頑固な神経症状を残すものといい得る程度の症状が残存していたものと認められるけれども、自動車を運転しおよび就労することが可能となつた同年六月一日以降における原告の症状は、慰謝料の対象として斟酌するのは格別として、特に減収を生じさせる程の労働能力の減少をもたらさない程度に軽快したものといわざるを得ない。

(3) そして、局部に頑固な神経症状を残すものといい得る程度の障害は、労働基準法ならびに同法施行規則別表第二によると身体障害第一二級第一二号に該当することに照らして考えると、原告は右の如く局部に頑固な症状を残していた間、その労働能力の約一四パーセントを喪失し、従つて少くとも収入の一四パーセント強にあたる一ケ月一〇、〇〇〇円程度の減収を生じたものと認められる。

(4) 逸失利益額 合計一、〇五九、三七二円

(イ) 昭和四二年九月二日から同四三年九月一日までの休業損の合計額は八四〇、〇〇〇円。

(ロ) 昭和四三年九月二日から同四四年一月二九日までの一四パーセントの割合による減収額は四九、〇三二円。

(算式)(一ケ月減収額)(期間)

一〇、〇〇〇×(四+28/31)=四九、〇三二円

(ハ) 昭和四四年一月三〇日から同年四月三日までの休業損の合計額は一五一、五二二円。

(算式)(一ケ月の収入)(期間)

七〇、〇〇〇×(二+2/31+3/30)=一五一、五二二円

(ニ) 昭和四四年四月四日から同年四月二八日までの一四パーセントの割合による減収額は八、三三三円。

(算式)(一ケ月減収額)(期間)

一〇、〇〇〇×25/30=八、三三三円

(ホ) 昭和四四年四月二九日から同年五月末までの得べかりし収入の同年四月二九日における現価は一〇、四八五円(ホフマン式算定法により年五分の中間利息控除、月毎年金現価率による)。

(算式)(一ケ月減収額)(ホフマン係数)

一〇、〇〇〇×(〇、九九五八+〇、〇五二七)=一〇、四八五円

(五)  精神的損害(慰謝料)

原告に対する慰謝料は一、〇〇〇、〇〇〇円をもつて相当と認める。

右算定の根拠は、前認定の如き傷害および後遺症の部位・程度および治療の経過その他諸般の事情。

(六)  弁護士費用

〔証拠略〕によれば、被告らは原告に対し治療費、交通費、休業損害の各一部を弁済したが、原告の全額請求に応じなかつたので、法律的素養のない原告は、大阪弁護士会に所属する本訴代理人弁護士らに対し本訴の提起と追行を委任しその主張の如き着手金を支払いおよび報酬を支払う旨約したことが認められる。そこで、右認定の事実および本件事案の難易、審理の経過、請求額、認容すべき損害額ならびに当裁判所に顕著な日本弁護士連合会および大阪弁護士会各報酬規定に照らすと、原告が被告ら各自に対し弁護士費用として賠償を求め得べき額は五〇、〇〇〇円と認めるのが相当である。

五、過失相殺の主張に対する判断

本件事故の状況は前記二(一)(二)のとおりであり、右事実に基けば、原告は本件横断歩道に差しかかつた際、前方を注視するとともに時速一五キロメートルに減速して進行していたところ、直前に至つて歩行者が飛出してきたため急停止の措置を採つたものであるから、原告に前方不注視その他安全運転義務違反の過失があつたとは認められない。

六、被告らの弁済の主張に対する判断

被告土佐モータースが原告に対し治療費および交通費として合計一八二、八三九円を弁済したとの事実は、本件全証拠によるもこれを認めるに足りない(なお、昭和四二年九月六日から同年一一月三〇日までの西田辺病院における治療費は被告土佐モータースが弁済したことは原告の自認するところであり、右治療費は本訴請求以外の部分に関するものであるから、原告の前認定の損害額から控除すべきではない)。

七、仮処分命令に基く支払の効力

原告はその主張の如き仮処分命令により合計七二〇、〇〇〇円の支払を受けたことを自認するけれども、仮処分命令は本案が確定するまでの間被保全権利たる原告の損害賠償請求権の実現遅延により生ずる危険を防止するため申請人に対し仮定的にその履行状態を付与したもので右権利の有無を左右するものではないから、右被保全権利を訴訟物とする本案訴訟にあたつては右仮処分命令による執行がなされたとしてもこれに関係なく審理判決するのが相当である。従つて、原告の自認する右受領額七二〇、〇〇〇円は本訴において斟酌しないこととする。

八、結論

以上により、被告らは各自原告に対し、右三(三)ないし(六)の合計額二、五八一、九〇〇円から第二の三の合計額一、七〇五、〇〇〇円を控除した残額金八七六、九〇〇円およびこれに対する本件不法行為の後である昭和四四年四月二九日から支払ずみまで民事法定利率の年五分の割合による遅延損害金を支払うべく、原告の本訴請求は右の限度で正当として認容し、その余の請求をいずれも失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を適用し、仮執行の宣言については相当でないものと認め、その申立を却下し、主文のとおり判決する。

(裁判官 本井巽 吉崎直弥 大喜多啓光)

別紙弁済表

〈省略〉

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